ガラパゴスな売り方とオライリーな売り方との違い。そして、Amazon Kindle はうまくやっているという話

オライリーは電子書籍と一緒に「安心」を売っている - ただのにっき(2011-09-16) を読んで考えたことをまとめてみます。

オライリー電子書籍という新しいメディアに対して旧態依然とした売り方をすることを選択しました。すなわち、「電子書籍も紙の本と同じですから安心して買ってください」という売り方です。オライリーDRM フリー普及フォーマット(EPUB, PDF)による販売は本と同様の「所有感」と「利便性」を購入に与え、それを「今までと変わらない」という安心感につなげることに成功しました。

一方、ガラパゴスな事業者*1電子書籍は新しいメディアなのだから、今までにはないなにかを開発することを選択しました。しかし、新しいメディアにふさわしい表現方法や読書体験を開発するのではなく、新しい販売形態をビジネス開発してしまいます。すなわち、電子貸本ビジネスであり、「電子書籍は本を売っているのではなく、読む権利を売っている。ちゃんと規約読め」な売り方です。貸本なので DRM やリーダーの限定は必然です。

つまり、オライリーガラパゴスの違いは単に DRM の有無に留まらず、「書籍販売」か「電子貸本」かというビジネス形態の違いということになります。このビジネス形態の違いは販売価格帯の差につながります。どういうことかというと、本に近いオライリーな売り方の場合、電子書籍の販売価格を印刷本に近づけることができます。具体的には印刷本の 2/3-1/3 に設定できます。一方、貸本に近いガラパゴスの売り方の場合、電子書籍の販売価格は印刷本よりかなり低く設定しないと、「高い」と思われてしまいます。具体的には、印刷本の 1/5-1/10 が値頃レンジです。TSUTAYA などのレンタル CD/DVD の価格設定が参考になります。

さて、異色なのが Amazon Kindle です。Amazon Kindle はどう考えても電子貸本サービスです。しかし、利便性を印刷本に近づけ、ある部分では印刷本を越えるという利便性を提供するという努力を続けました。これにより「電子貸本」であるにもかかわず「書籍販売」に近い価格設定を可能にする、という新たなビジネス領域を可能にしました。

オライリーな売り方が望ましいのかガラパゴスな売り方が望ましいのか、筆者には断言することができません。両者が共存して読者が状況に応じて適切な方を選択できるようになるのを希望するのですが、その両方のバランスをうまくとった Amazon Kindle はうまくやっていると思います。私も欲しいです Kindle, 誰かください。

*1:特定の事業者ではなく、ある種の国内の主要「電子書籍」事業者の総称として用いています。